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美容師の給与をどう決めるか。固定給・歩合・指名料の組み立て方

 株式会社セイファート

給与の仕組みを説明している場面のイラスト
給与の仕組みを説明している場面のイラスト

スタッフが納得しないのは、給与が低いときではありません。なぜその額になったのかを、説明できないときです。

「今月は少し少ないね」と言われて、その場で理由を答えられるか。答えられないなら、額をいくら上げても同じことが起き続けます。

美容室の給与は、固定給・歩合・手当の組み合わせでできています。組み合わせ方に正解はありませんが、守らなければならない決まりと、決めておかないと揉めるところがあります。

順にまとめました。なお、この記事は考え方の整理です。実際に制度を作るときや変えるときは、必ず顧問の社会保険労務士さんにご確認ください。

美容室の給与は、3つの部品でできている

部品 中身 性格
固定給 基本給、役職手当 毎月変わらない
歩合給 技術売上、店販、指名に応じた分 月によって変わる
手当 通勤、住宅、資格、皆勤など 条件を満たせば付く

このうち、どこまでを固定にするかがいちばんの判断です。固定を厚くすると本人は安心しますが、売上が落ちた月もサロンが負います。歩合を厚くすると売上に応じますが、月ごとの振れ幅が大きくなり、生活が読めなくなります。

振れ幅が大きいと、人は辞めます。とくにアシスタントや、デビューしたばかりの時期は。

言葉の意味をそろえる

ここが曖昧なまま話すと、本人と食い違います。

言葉 意味
基本給 手当やボーナスを含まない、給与の基礎となる金額
固定給 基本給に、変動しない手当(役職手当・住宅手当など)を足した、毎月決まって支払われる金額
月給 基本給+固定手当。毎月固定で支払われる賃金
月収 月給に、変動する手当も含めた1か月の額面の総収入
初任給 変動する手当も含めた額面の総収入。「初月給」とは違います
歩合 決められた掛け率で計算して加算される給与
手当 決められた定額で加算される給与

「月給」と「月収」は一字違いですが、中身が違います。月収には歩合が入っているので、売れなかった月には届きません。本人が「もらえる額」として受け取るのは、ほぼ月給のほうです。

まず、雇用か業務委託かで分かれます

ここを分けずに話すと、噛み合いません。同じ「歩合」という言葉でも、意味がまったく違ってきます。

雇用(正社員・パート) 業務委託・面貸し
労働基準法 かかる かからない
完全歩合 できない できる
最低賃金 かかる かからない
残業代 必要 概念がない
社会保険・雇用保険 サロンが加入させる 本人が国保・国民年金
働く時間の指定 できる できない

同じ店の中に両方がいることも、珍しくありません。だからこそ、いまどちらの話をしているかを、その都度はっきりさせてください。

雇用なら、完全歩合にはできない

労働基準法第27条に「出来高払制の保障給」という定めがあります。歩合(出来高)で払う場合でも、実際に働いた時間に応じて、一定額の賃金を保障しなければなりません。

固定給をゼロにして「売上の◯%だけ」という形は、雇用契約では認められません。暇な月に賃金がほとんど出ない、という状態を防ぐための決まりです。

保障する額について、行政の解釈では通常の賃金の6割程度が目安とされています。また、保障給は最低賃金を下回ることができません。

歩合の割合が高いサロンほど、ここを確かめておく必要があります。固定給を低く置いていると、売上の少ない月に最低賃金を割ってしまうことがあります。

なお「保障給制」という呼び方をする場合、固定給と歩合の合計が、あらかじめ決めておいた保障額に届かなかった月に、その保障額を支払う仕組みを指します。

業務委託・面貸しなら、完全歩合になる

こちらは労働基準法の対象外です。保障給も最低賃金もかからず、報酬が歩合だけという形になります。募集のときは「完全歩合制」と書きます。

気をつけるところが3つあります。

契約の名前ではなく、実態で判断されます。

業務委託という契約にしていても、実態が次のようであれば、雇用とみなされることがあります。

  • 出勤する日や時間を、サロンが決めている
  • 仕事の進め方に指示を出している
  • 他店で働くことを禁じている
  • 道具や材料をサロンが用意している
  • 本人の代わりに別の人が入ることを認めていない

雇用とみなされれば、保障給も、最低賃金も、残業代も、さかのぼって必要になります。ここは文章で線を引けるものではないので、契約の形を決めるときに社会保険労務士さんに見ていただいてください。

募集の書き方が変わります。

雇用形態を「業務委託」「面貸し」とはっきり書きます。雇用の募集に「完全歩合制」とは書けませんし、業務委託の募集を「正社員」と書くこともできません。

取り違えると、応募された方と最初から話が食い違います。来ていただいてから説明するのでは遅いところです。

社会保険の扱いが違います。

業務委託では、サロンが社会保険や雇用保険に加入させることはできません。本人が国民健康保険と国民年金に入ります。労災も原則として対象外です(特別加入という制度はあります)。

募集に「社会保険完備」とは書けません。ここを書かずにおくと、入ってから必ず話が出ます。

歩合を、どう決めるか

「歩合あり」とだけ決めているサロンが、いまでも少なくありません。決めるべきことは4つです。

1. 何に対する歩合か

  • 技術売上(自分が担当した施術の売上)
  • 店販売上
  • 指名

3つを同じ率にする必要はありません。店販を伸ばしたいなら店販の率を高くする、というように、伸ばしたいところの率を上げるのが基本の考え方です。

2. 何パーセントか

ここはサロンの原価構造によります。よそに合わせるより、自店の数字から決めてください。人件費率が何パーセントまでなら回るかを先に出し、そこから逆算します。

3. いつから対象になるか

アシスタントの期間はどうするのか。デビューした月から全部つくのか、段階的に上がるのか。ここを決めていないサロンが、いちばん揉めます。

4. 差し引くものがあるか

材料費や、歩合の計算から外す売上(クーポン利用分、割引分など)があるなら、先に伝えてください。あとから「これは対象外です」と言うのがいちばん良くありません。

指名料の扱い

美容室特有の、揉めやすいところです。

  • 指名料をお客様からいただいているか
  • その全額が本人に渡るのか、一部か
  • 指名の歩合は、技術売上の歩合とは別に計算するのか
  • 新規のお客様が2回目に同じ人を選んだ場合、指名として数えるのか

最後の項目は見落とされがちですが、本人にとっては大きい話です。数え方ひとつで、月の収入が変わります。

決めたら、計算の例を1つ書いて渡してください。「売上80万円、指名30人の月は、こうなります」という具体例が1つあれば、言葉での説明より伝わります。

募集に書くときの決まり

決め方とは別に、人を集めるときの書き方には決まりがあります。2022年10月の改正職業安定法で、求人情報の「的確表示」が義務になりました。虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしてはならず、内容を正確で最新に保つ措置を取ることが求められます。給与は、とくに厳しく見られるところです。

書けるのは、必ず支払われる額だけ

募集に書く給与は、その条件で最低限保障される金額です。月によって変わるものを混ぜることはできません。

✕ 書けない ⭕️ こう書く
月給25万円(歩合含む) 月給25万円+歩合
月給25万円(店販手当含む) 月給25万円+店販手当
月給25万円(各種手当含む) 月給25万円(職務手当2万円含む)
月給25万円(交通費含む) 月給25万円(交通費別途支給)
月収25万円/初任給25万円 月給22万円+歩合(月収例25万円)
給与 手取り20万円 月給25万円(総支給額)
給与 およそ20万円 月給25万円

考え方はひとつです。読んだ人が「必ずもらえる額」を取り違えないこと。 歩合や変動する手当は、月給と分けて書けば問題ありません。

一律で付く手当を月給に含めること自体は構いませんが、手当の名前と金額を書いてください。「一律手当含む」では何が入っているか分かりません。「一律住宅手当1万円含む」なら分かります。

固定残業代を使うなら、3つとも書く

美容室では、営業後の練習や講習があるため、固定残業代(みなし残業代)を入れているサロンがあります。使うこと自体は問題ありませんが、次の3つをすべて書く必要があります。

  1. 固定残業代を除いた基本給の額
  2. 固定残業代の金額と、何時間分か
  3. その時間を超えた分は、追加で支払うこと

✕ 月給25万円(固定残業代含む)

⭕️ 月給25万円  基本給 21万2,000円  固定残業代 3万8,000円(20時間分)  20時間を超える残業代は追加で支給

3つめが抜けると、「何時間働いても同じ」という意味に読まれます。実際にはそうはできません。

試用期間は、長さと金額をセットで

✕ ⭕️
月給20万円(ただし試用期間中は19万円) 月給20万円(ただし試用期間3か月は月給19万円)

期間の長さが書かれていないものは認められません。条件が変わらない場合も、試用期間があることとその長さは書きます。

求人票全体の書き方は美容室の求人票の書き方にまとめています。

歩合があると、残業代の計算が変わります

ここは見落とされやすく、あとから大きな問題になりやすいところです。

歩合給がある場合、残業代は固定給の部分と歩合の部分で別々に計算します。歩合部分の計算は、固定給部分と同じ式ではありません。

計算の仕方まではこの記事では立ち入りません。お伝えしたいのは1点だけです。

固定給だけの前提で作った計算式を、歩合を入れたあともそのまま使っていると、残業代が不足します。 歩合を導入したとき、割合を変えたときは、給与計算の式も見直す必要があります。

ここは必ず社会保険労務士さんか、給与計算をお願いしている先に確認してください。

アシスタントの給与

新卒や未経験を採るなら、ここが要になります。

  • 入ってから何か月で、何が変わるのか
  • デビューの基準は何か
  • デビューしたら、いくらになるのか

3つめまで示せるサロンは多くありません。「デビューしたら上がります」ではなく、「いまデビューしている人は、この額です」と言えるかどうかです。

面接でここを聞かれたとき、答えられるかどうかで比べられます。中途の面接で確かめることはこちらにまとめました。

練習と講習の時間を、どう扱うか

給与の話をするとき、必ずここが出てきます。

  • 営業後の練習は、勤務時間に入るのか
  • 入るなら、残業代はどう計算するのか
  • 講習費や材料費は、誰が負担するのか
  • 休日の講習は、勤務扱いか

ここが曖昧なまま入社すると、数か月後に必ず話が出ます。先に文字にして渡しておくほうが、お互いに楽です。

決めたら、文字にして渡す

口頭だけで伝えた条件は、必ず食い違います。

  • 入社前に、労働条件を書面(または本人が希望すれば電子)で渡す
  • 給与の仕組みは、計算例を添える
  • 変えるときは、変える前に伝える

3つめが大事です。歩合の率を下げる、計算の方法を変える。こうした変更を後から知らされると、金額の大小にかかわらず信用を失います。

採用した美容師が3か月で辞める原因の多くが、条件の食い違いから始まっています。

相場に寄せるより、説明できるようにする

「よそはいくら出しているのか」を気にされるサロンは多いのですが、額をよそに合わせても、人は残りません。

残るのは、こういうときです。

  • 自分の給与がどう計算されているかが分かる
  • 何をすれば上がるかが分かる
  • 上がった人が、実際に目の前にいる

3つめが効きます。制度としてどれだけ整えても、実際に上がった人がいなければ信じてもらえません。

条件を伝えた記録を残す

私たちが提供している「QJ Manager」は、サロンのLINE公式アカウントにつないで使う採用管理ツールです。給与を計算する道具ではありませんが、条件のやり取りを残すために使えます。

  • 応募者ごとに、やり取りとメモが1つの画面にまとまる
  • 決めた条件をLINEで送れば、本人の手元にも記録が残る
  • 対応した担当者が記録に残るので、担当者が不在でも他のスタッフが経緯を追える
  • 内定から入社までの連絡を、途切れさせずに続けられる

「言った・言わない」を防ぐだけでも、入社後のつまずきはかなり減ります。

中途採用でのご利用については、中途採用向けのご案内でご説明しています。

まとめ

  • 納得されないのは額ではなく、計算を説明できないとき
  • 固定給・歩合・手当の配分を決める。振れ幅が大きいと、人は辞める
  • 「月給」と「月収」は中身が違う。本人が受け取るのは月給のほう
  • まず雇用か業務委託かで分ける。 同じ「歩合」でも意味が変わる
  • 雇用なら完全歩合にはできない。労働基準法27条により、働いた時間に応じた保障給が必要。目安は通常の賃金の6割程度とされ、最低賃金も下回れない
  • 業務委託・面貸しは完全歩合になる。ただし契約の名前ではなく実態で判断される。時間を指定し、指示を出していれば雇用とみなされうる
  • 業務委託では社会保険に加入させられない。「社会保険完備」とは書けない
  • 歩合は「何に対して」「何%」「いつから」「何を差し引くか」の4つを決める
  • 指名の数え方まで決めて、計算例を1つ添えて渡す
  • 募集に書けるのは必ず支払われる額だけ。「月給25万円(歩合含む)」は書けない。「月給25万円+歩合」と分けて書く
  • 月収・初任給・手取り・およその額だけの表記は、最下限が分からないので使えない
  • 固定残業代を使うなら、除いた基本給・金額と時間数・超過分の支払いの3つを示す
  • 試用期間は長さと金額をセットで。条件が変わらない場合も、期間は書く
  • 歩合があると残業代の計算が変わる。固定給だけの式のままだと不足する
  • アシスタントには「デビューしたらいくらか」を、実際の数字で示す
  • 練習・講習の扱いは先に文字で渡す
  • よその額に寄せるより、上がった人が目の前にいるほうが効く

いま、スタッフに「今月の給与がこの額になった理由」を聞かれたとして。

その場で紙に書いて説明できないなら、金額ではなく仕組みのほうを先に直したほうがよいのかもしれないのです。

参考:厚生労働省 労働基準法第27条(出来高払制の保障給)

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